インバウンドや海外に需要見出す化粧品業界の1位、資生堂

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異業種参入で競争激しい化粧品業界分析シリーズ3

ここまで、化粧品業界の歴史や特徴、最近のニュース等を述べてきましたが、ここからは、実際の企業を分析していきたいと思います。日本の化粧品メーカーの最大手である株式会社資生堂と花王株式会社を見ていきたいと思います。

 

国内化粧品メーカートップ2社 資生堂と花王の売上高比較

下の地図に2016年の世界における地域別売上高を掲載しました。
花王はコンシューマープロダクツ事業の売上であり、化粧品事業だけでなく、紙おむつや生理用品を含むヒューマンヘルスケア事業と衣料や食器洗剤関連のファブリック&ホームケア事業も含んでいます。数字上は資生堂より大きくなっており、あくまでも参考として見ていただければと思います。ちなみに、花王の化粧品事業は、コンシューマープロダクツ事業の45.1パーセントです。

 

(出所)株式会社資生堂及び花王株式会社「2016年12月期 有価証券報告書」を基に筆者作成

 

資生堂の歴史

まずは資生堂についてみていきたいと思います。資生堂の略歴を紹介をしたいと思います。

 

(沿革)

1872年     福原有信が東京・銀座にわが国初の洋風調剤薬局として創業

1897年     化粧品業界へ進出(化粧水「オイデルミン」を発売)

1927年  株式会社資生堂となり、取締役社長に福原信三就任

1931年     初の本格的海外展開、東南アジア向けに「ローズ化粧品」輸出

1949年     東京証券取引所に株式を上場

1966年   日本の広告で初めて海外ロケをハワイで実施

1975年     「資生堂ザ・ギンザ」開店

1981年   中国・北京で販売開始

1984年   肌の保湿に重要な成分であるヒアルロン酸を、発行培養法により量産化に成功

1989年   ボストンにハーバード大学と共同で世界初の皮膚科学研究所開設

1991年   欧州に初めて生産拠点を開設

2000年   米国「NARS(ナーズ)」ブランド買収

2010年     米国ベアエッセンシャル買収

2011年   資生堂グループ企業理念「Our Mission, Values and Way」制定

 

1931年に海外展開をしているのをみてわかる通り、資生堂は早くから海外市場を重視してきました。実際、資生堂は海外事業で第一線として活躍しており、本格的にグローバルに事業展開している企業です。

 

中国の販路では、Eコマース市場が拡大し、化粧人口の増加により更なる拡大が見込まれる中、中国ブランドなどを展開しています。

 

米国では「NARS」や米国でファンデーションNo.1の「bareMinerals」を買収し、それらを中心に展開しています。

 

また、資生堂はその長い歴史の中で得てきた顧客の信頼度も大きな強みであり、数字には表れない無形の資産といえるでしょう。

 

資生堂、社内ベンチャー制度を設立

2016年8月10日付の日本経済新聞に、資生堂が社内ベンチャー制度を立ち上げたと報じられました。年1回の審査を経て毎年1~2の新規事業を立ち上げるとのことです。本業の化粧品以外の事業を育てるのが狙いで、新事業は3年以内の黒字化をめざすとあります。

 

ベンチャー制度は「スプーン」と名付けられました。美容、健康、スポーツ、育児など幅広い分野から新ビジネスを会社に提案するとしています。提案者が担当となって事業の責任を負うとあり、会社は資金や人材面で新事業を支えるとしています。2016年は8月までに150件の提案があり、秋までに1~2件に絞り、来年1月から準備に取り組むとしています。事業によっては外部との提携も検討するそうです。

 

更に、同紙によると、資生堂は、将来の新たな柱となるビジネスを立ち上げるとともに、起業家マインドを持つ社員を育てたいとのことです。

 

また、2016年12月9日の資生堂のニュースリリースによると、外部のベンチャー企業に投資する目的で「資生堂ベンチャーパートナーズ」を会社内に設置したとのことです。上述の「スプーン」で内部ベンチャーを育てるだけでなく、企業内では得られない発想を求めて外部企業に出資し、その技術やアイデアを取り込みたいとのことです。第1号案件として提案型飲料サプリメントを販売するドリコス株式会社に投資すると発表されました。

 

1.まず日経新聞で報じられた記事から読み取れる戦略としまして、資生堂の中長期戦略「VISION 2020」をみると、資生堂は静的なイメージを打破し、「動け、資生堂」とのスローガンを掲げ、何か新しいものを生み出していくというような社風に転換するとしており、社内ベンチャー制度は、現在資生堂が実施している社内改革の一端の表れと思われます。リスクの高いベンチャーに投資するということは、将来、既存のブランドのみには頼らないということなのかもしれません。

 

2.また、資生堂は化粧品事業だけでなく新たな領域のビジネスに参入することで、より自社の収益基盤を強固にしていくということもあるのかもしれません。外部のベンチャー企業への投資も、そのような事業の多角化に貢献するでしょう。

 

出典:日本経済新聞 2016年8月10日  http://www.nikkei.com/article/DGXLZO05897640Z00C16A8TI5000/

株式会社資生堂ニュースリリース 2016年12月9日   https://www.shiseidogroup.jp/news/detail.html?n=00000000002083

株式会社資生堂ニュースリリース 2014年12月 https://www.shiseidogroup.jp/releimg/2371-j.pdf

日経ビジネス  資生堂:意識改革とICTツールを両輪に失敗を恐れずチャレンジする企業風土へ (2017)  http://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NBO/15/microsoft1217/p8_2/

 

資生堂、米化粧品メーカーを買収 海外展開を強化

資生堂は2016年6月3日、米化粧品メーカー、ガーウィッチ・プロダクツ(デラウェア州)を買収すると発表し、同年7月12日に買収手続きを完了しました。ガーウィッチは「ローラ メルシエ」や「リヴィーブ」といった高級品ブランドを持ち、全世界で販売しています。買収金額は非公表ですが、日本経済新聞によると買収額は250億から300億円程度であったようです。 [https://www.nikkei.com/article/DGKKZO03214350T00C16A6TI1000/]

 

資生堂のニュースリリースによると、ガーウィッチ社の売上高は2015年12月期で1億7500万ドル(約190億円)でした。[http://www.shiseidogroup.jp/news/detail.html?n=00000000001945] ガーウィッチはメイクアップ及びスキンケアを中心とするブランドを展開しており、欧米で人気があります。年次報告書によると、特に米州ではメイクアップ市場の成長が大きく、「ローラ メルシエ」を中心に大きな拡大が見込まれており、問題の多かったベアエッセンシャルの立て直しを含めて、今後米州市場でどのように拡大していくか注目です。

 

資生堂、イタリアの高級化粧品メーカー「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」とライセンス契約

目を欧州にむけると、資生堂は2016年6月30日に、ドルチェ&ガッバーナ(以下D&G)とフレグランス、メイクアップ、スキンケア商品の開発、生産および販売に関する独占グローバルライセンス契約を締結したと発表しました。欧州市場は770億ユーロ(10兆円)であり、需要は高いのですが、資生堂のシェアは852億円であり8パーセント程度にとどまっております。今後は、D&Gブランドを活かして、特にフレグランスの売上を伸ばしたい考えです。(資生堂アニュアルレポート2016, pp.32-33)

 

株式会社アユーララボラトリーズを株式会社アインファーマシーズに譲渡

2015年6月30日に資生堂の子会社である、アユーラをアインに譲渡したことは記憶に新しいことです。その前年には仏ロレアルに化粧品ブランド「カリタ」「デクレオール」を売却しております。最近では、2017年10月27日の資生堂のプレスリリースによると、資生堂の米国子会社ゾートスインターナショナルInc.をドイツのヘンケル社に譲渡すると発表がありました。これら一連の動きに代表されるように資生堂は「選択と集中」という経営方針のもと、不採算ブランドを積極的に売却し、ブランドの再編を進めております。この事業再編によって経営資源を成長が見込まれる中国や東南アジアに集中したい考えです。

 

(出典) 日本経済新聞  「資生堂、「プロ経営者」動く 6年ぶりのM&A 拡大局面、試される手腕」 2016年6月4日   http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ30I2R_Q5A630C1TI1000/

日本経済新聞  「資生堂、米ヘアケア事業会社を独ヘンケルに譲渡」 2017年10月27日 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22777080X21C17A0EAF000/

資生堂ニュースリリース 2016年6月3日 “資生堂がアメリカ地域本社を通じてガーウィッチ プロダクツ社を買収”  http://www.shiseidogroup.jp/news/detail.html?n=00000000001945

資生堂ニュースリリース 2016年7月1日 “資生堂グループ 「DOLCE&GABBANA」とライセンス契約を締結”  http://www.shiseidogroup.jp/news/detail.html?n=00000000001960

資生堂ニュースリリース 2016年7月13日 “資生堂がアメリカ地域本社を通じてガーウィッチ プロダクツ社買収を完了”  http://www.shiseidogroup.jp/news/detail.html?n=00000000001968

資生堂ニュースリリース 2017年10月27日 “ゾートスインターナショナルInc.の譲渡に関するお知らせ”  http://www.shiseidogroup.jp/news/detail.html?n=00000000002306

資生堂アニュアルレポート2015, pp.30-33 http://www.shiseidogroup.jp/ir/library/annual/pdf/2015/anu_00001.pdf

資生堂アニュアルレポート2016, p.30  http://www.shiseidogroup.jp/ir/library/annual/pdf/2016/anu_00001.pdf

 

資生堂、財務分析

さて、今度は資生堂の財務分析をしたいと思います。まずは表をご覧ください。

 

(出所)株式会社資生堂「有価証券報告書」を基に筆者作成

(注)2017年は8月9日現在の予想値

 

資生堂のトップは、2013年に生え抜きの末川久幸氏から、コカコーラ等の外部で実績のある当時顧問であった魚谷雅彦氏に代わりました。長い伝統を誇る資生堂では外部の人材を経営のトップに据えることは異例であり、硬直した企業組織改革や業績向上のための思い切った選択だったようです。(毎日新聞 「変革 第2部 資生堂/15,16,17」 2017年2月28日、3月1日、3月2日 リンク別掲)
そのような大きな動きに加えて、2014年12月に発表された中長期戦略である「VISION 2020」では、数値目標として、2020年までに売上1兆円超、営業利益1000億円、ROE12パーセントの達成と大きな目標に掲げており、現在資生堂は、加速度的に前進しているようです。財務については、ここではポイントを2つ述べたいと思います。

2013年に関しては、当期純利益が64年ぶりに赤字になっている。

その主な原因は、以下の2点が考えられます。

1.2ケタの成長を続けていた中国市場での反日デモにより売上が下がりました。また国内販売の不振が影響しているようです。

2.そして、大きな打撃となったのは米のベアエッセンシャルの子会社化に伴うのれん代が、業績不振により減損計上しなければならなかったためといえるでしょう。P/Lの減損損失の286億円にも上っています。

② しかし、2014年には黒字に転嫁している。

その主な要因は、次の通りです。

1.海外事業での選択と集中(中国、ベア社)を進めたこと。

2.そして、日本市場でのブランド力の強化をし、中価格帯化粧品(2000~5000円)の拡大に成功したことです。

資生堂は現在、海外事業の拡大を進めて売上を伸ばしており、2017年売上予想も第2四半期で上方修正しており、2020年まで売上1兆円は達成する気配が濃厚となっております。魚谷社長のもと大胆な企業内部の改革と相まって、急速な事業転換を進めており、数年前の停滞気味という印象を払拭しつつあるようです。今後は更に大きな飛躍を遂げていくものと期待できます。

 

(出所)株式会社資生堂ニュースリリース 2014年12月 https://www.shiseidogroup.jp/releimg/2371-j.pdf

毎日新聞 変革 第2部 資生堂/15,16,17  2017年2月28日、3月1日、3月2日 https://mainichi.jp/ch161039449i/%E5%A4%89%E9%9D%A9/1

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ30I2R_Q5A630C1TI1000/

 

結論

もう一方の化粧品業界の雄である資生堂もやはり変革期に入っています。それまでの静的なイメージから、全社的に様々なことに積極的に挑戦していこうとする姿勢へと転換しているのは、見てきたとおりです。資生堂の売上は急成長しており、目標の1兆円に届きそうな勢いです。「VISION2020」に掲げられた中長期目標の達成は、可能性としては十分にあり得るといえるでしょう。

 

化粧品業界は岐路に立たされております。不況に強いといわれておりますが、人口減少傾向の国内市場が今後大きく需要改善することはあまり期待できそうもありません。しかし、海外、特にアジアでの需要は拡大を続けており、既存のブランドをはじめとする化粧品メーカーは、海外進出を視野に経営を進めるものと思われます。したがって、今後の化粧品業界の動向は、ますます海外市場や為替相場等に影響を受けることになるものと思われます。

 

現在、化粧品業界の競争は激しさを増しており、今後の動向は不透明です。今回はそのような、変化と挑戦に満ちた業界を、主に国内を中心に論じてきました。次の機会には、同業界の日本企業の海外での動向や、海外のブランドとの競争等について取り上げてみたいと思います。

 

 

執筆者:パイルズガレージ編集部

編集者:株式会社mannaka

協賛 :株式会社エスネットワークス
 

財務・会計系コンサルティング会社。
ベンチャー企業やローカル企業にCFOコンサルティングを行っています。
「経営者の輩出」を企業理念とし会計や財務の実務支援能力だけでなく、 CFOとして求められる知識や経営センスをより短期間で身に付け、育成することを目指しています。
エスネットワークスは、「経営者の視点でニーズを掴み、経営者の視点で課題を解決し続ける、最強パートナー」を実現すべく、成長し続けています。
 

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