TSUTAYAを脅かすレンタル市場低迷 CCC、新空間の「蔦屋書店」拡大で生き残れるか
目次
北海道TSUTAYA、蔦屋書店を増設
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)( 以下、カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の傘下で完全子会社の北海道TSUTAYA株式会社(以下、北海道TSUTAYA)が10年計画で道内に「蔦屋(つたや)書店」を10店舗展開する方針を決定しました。
北海道TSUTAYAは既に「函館 蔦屋書店」を2013年12月に開業しています。北海道展開第二弾として、2018年夏に「江別 蔦屋書店」を開業する予定です。札幌に隣接する江別市で読書とコーヒーを楽しめる「空間」を提供し、市民が集まるコミュニティの中心を作る狙いがあります[1]。函館店、江別店でノウハウを蓄積し業績が好調なら道内10店舗の出店を目指します。
なお、TSUTAYA事業を運営する株式会社TSUTAYAなどを統括し、ホールディングカンパニーであるカルチュア・コンビニエンス・クラブについては、2017年6月16日の記事「『TSUTAYA』のCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)とはどんな企業?」で紹介されているので、そちらをご覧ください。
「蔦屋書店」とは? 「TSUTAYA」との違い
「TSUTAYA」といえばDVD/CDレンタルでお馴染みですが、「蔦屋書店」は従来の「TSUTAYA」とどう違うのでしょうか?
「TSUTAYA」をDVD/CDストアと呼ぶならば、「蔦屋書店」はCD/DVDストア、書店、カフェ、雑貨店、コンビニエンスストア、コスメショップなどを集めた複合型施設です。
広い空間に複数の店を連立させた複合施設。そこではCD/DVDストアの域を出てコーヒーを飲みながら本を読む、子供を園内で遊ばせる、専門店を回る、エステを楽しむ、といった体験ができます。
従来の「TSUTAYA」とは異なる複合施設「蔦屋書店」。CD/DVDストアの枠を超えた「蔦屋書店」(T-SITE、蔦屋家電と命名されている店舗もある。)は全国14店舗で展開されています[2]。
DVDなど映像ソフトレンタル市場の現状
カルチュア・コンビニエンス・クラブ、及び傘下の北海道TSUTAYAが「蔦屋書店」を展開する背景にはレンタル事業の売上不振があります。
DVDなど映像ソフトレンタル市場の低迷
(出所)一般社団法人日本映像ソフト協会「販売用、レンタル店用、業務用別市場の推移」より筆者作成
http://jva-net.or.jp/report/genre_sales.pdf
(注)映像ソフトの定義は各年異なる。
2006年はビデオカセット+DVD
2007年はDVDのみ
2008年-2010年はDVD+ブルーレイ+UMD
2011年以降はDVD+ブルーレイ
上記のグラフはレンタル店用に出荷した映像ソフト(DVD、Blu-ray、VHSなど)の年間売上金額を示しています。2006年に1,057億円だった売上金額が、2016年には491億円にまで落ち込んでいるのがわかります。
映像ソフトレンタル市場の脅威 Netflixなど映像配信サービスの台頭
Netflix、Hulu、Amazonプライム、U-NEXTなどの映像配信サービスが台頭してきたことが、DVDなど映像ソフトレンタルの市場が低迷している背景にあると考えられます。
(出所)STATISTA「Number of Netflix streaming subscribers worldwide from 3rd quarter 2011 to 2nd quarter 2017 (in millions)」より筆者作成
上記のグラフはNetflixの全世界合計ユーザー数の推移です。2011年より右肩上がりで増加し続け、現在93億人近くにまでユーザー数を伸ばしています。(日本では2015年9月よりNetflixがサービスを開始。)
映像配信サービスの優位点 ユーザー目線からのメリット
Netflixなどの映像配信サービスは、ユーザー目線から見ても以下の4つのメリットがあり、今後も成長していくと考えます。
- 定額見放題なので、視聴本数が多いユーザーならレンタル店よりお得
- ドラマは次エピソードが自動再生されるので、ディスクを入れ替える手間がない
- レンタル店に返却する手間がない
- ソフト未発売の作品も見られる
カルチュア・コンビニエンス・クラブ、「蔦屋書店」で競争環境の変化に対応
上記のように、映像ソフトレンタル事業にとって「代替品の脅威」となる映像配信サービスが台頭しています。映像ソフトレンタル事業だけに頼るわけにはいかない、そんな競争環境の変化からカルチュア・コンビニエンス・クラブ、及び傘下の北海道TSUTAYAによって提案されたのが複合型施設「蔦屋書店」と言えるでしょう。DVDなど映像ソフトのレンタルに留まらず、様々な体験を味わえる「空間」を提供するのが「蔦屋書店」です。
TSUTAYAの業績
カルチュア・コンビニエンス・クラブは株価を含め、財務情報を非公開にしています。しかし2017年2月3日、カルチュア・コンビニエンス・クラブは2016年までの株式会社TSUTAYAにおける書籍・雑誌年間販売総額を発表しました[3]。2016年の書籍・雑誌販売総額では過去最高の1,308億円を記録したと報じています。また、同発表の中でも「空間の演出」、「店舗のリノベーション」といった今回紹介した施設内の刷新が売上に寄与したと紹介されています。
「蔦屋書店」から学ぶ、生き残りをかける今後の小売業
今回は近年新展開を見せている「蔦屋書店」を取り上げました。欲しい物はオンラインで注文できる時代に小売業が取るべき行動とは何でしょうか。「蔦屋書店」はショッピングというサービスを超えて、ゆっくり過ごせる空間の提供に乗り出しました。「モノを売る時代からコトを売る時代へ」というポイントを意識してこれからの小売業界に注目していきましょう。
参考
[1] T-SITE 「『江別 蔦屋書店』が北海道江別市に2018年夏オープン。自然に囲まれた空間でコーヒーと本を楽しむ」 http://top.tsite.jp/lifestyle/lifetrend/i/37023440/index
[2] T-SITE STORE http://top.tsite.jp/lifestyle/store/?sc_ext=tcore_tcore_tnaviheader
[3]株式会社TSUTAYA「22 年連続成長で過去最高を更新 TSUTAYA 書籍・雑誌 年間販売総額 1,308 億円」 http://www.ccc.co.jp/20170203_TSUTAYA%E6%9B%B8%E7%B1%8D%E3%83%BB%E9%9B%91%E8%AA%8C%E3%81%AE%E5%B9%B4%E9%96%93%E8%B2%A9%E5%A3%B2%E7%B7%8F%E9%A1%8D%E3%81%8C%E9%81%8E%E5%8E%BB%E6%9C%80%E9%AB%981%2C308%E5%84%84%E5%86%86%E3%82%92%E9%81%94%E6%88%90.pdf
執筆者:パイルズガレージ編集部
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
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