企業の自己資本比率が最高を更新 日本企業はただ内部留保を積み立てているだけか?

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 日本企業は内部留保をただ積み立てているだけなのか?

2017年9月、日本経済新聞に「企業の自己資本比率42.7%で過去最高 4~6月期」という記事が掲載されました。記事の中では企業の溜め込んだ資金が有効活用できていないと指摘しています。
では、日本の企業は稼いだお金(内部留保)をただ積み立てることによって自己資本比率を高めてきたのでしょうか。実際の数字をもとに分析をしてみると、それほど単純ではないことがわかります。
今回は日本企業の財務状況について解説していきたいと思います。

 

(出典)日本経済新聞「企業の自己資本比率42.7%で過去最高 4~6月期」

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS04H6Y_X00C17A9EE8000/

 

そもそも自己資本比率とは?

まず自己資本比率について説明したいと思います。自己資本比率とは、貸借対照表の総資本(他人資本+自己資本)に占める自己資本の割合のことを指します。

 

 

他人資本は借入や社債など株主以外から集めた返済の義務がある資金のことです。それに対して、自己資本とは純資産の部の金額のことを指します。他人資本とは異なり返済の義務がない資金です。したがって、自己資本比率とは調達した資金のうち返済の義務がない資金の割合とも言えます。
自己資本比率が高い企業ほど、返済不要の資金の割合が多く経営は安定し倒産しにくい企業となります。そのため、自己資本比率は企業の安定性を分析するときによく使われます。

 

自己資本比率が高い=使えるお金をたくさん持っている?

自己資本の中でも特に増えているのが利益剰余金です。一般的に、利益剰余金は内部留保といった呼ばれ方もします。ただし、内部留保は正確な会計用語ではないので本文では利益剰余金で統一したいと思います。この利益剰余金とは企業が過去の活動で稼いだ利益から、法人税を支払い、さらには投資家の方への利益の分配を行ったあとに残った利益の累計額のことです。
この利益剰余金の額が多かったとしても、企業が実際に使えるお金を多く持っているとは限りません。なぜなら、利益剰余金そのものが現金で存在するわけではないからです。

 

利益剰余金≠現預金?

利益剰余金は必ずしも現預金で保有されているとは限らない

ここでバランスシートの構造を簡単に説明したいと思います。バランスシートの左側は資産の運用形態を表します。一方、バランスシートの右側が表しているのは資産の調達源泉です。すなわち、右側の純資産部に計上される利益剰余金は、資産の調達源泉を表しているのです。利益剰余金はバランスシートの左側の項目と一対一で紐づけられるものではなく、必ずしも現預金や有価証券等の形で保有されているとは限りません。

 

事業スタート時のバランスシート

例えば、ある会社が資本金30億円と借入金20億円で事業をスタートしたとします。この時のバランスシートは以下のようになります。

 

「仕訳」

(借方)現金50億円/(貸方)資本金30億円、借入金20億円

 

 

一年目のバランスシート

一年目、生産のために50億円で工場を購入して、10億円の利益を上げました。

 

「仕訳」

(借方)有形固定資産50億円/(貸方)現金50億円

(借方)現金10億円/(貸方)売上10億円

※売上は最終的に利益剰余金として計上

 

 

二年目のバランスシート

二年目に手持ちの現金10億でまた工場を購入します。そして、20億円の利益を上げました。

 

「仕訳」

(借方)有形固定資産10億円/(貸方)現金10億円

(借方)現金20億円/(貸方)売上20億円

 

※わかりやすく説明するために仕訳の部分を簡略化しています。

 

上の例からわかるように、二年目の時点で利益剰余金と現金に誤差が生まれています。左側の利益剰余金は右側の現金と対応していません。利益剰余金は資金の調達源泉と述べた通り、バランスシートの左側において様々な資産に形を変えています。
よって、利益剰余金の額や自己資本比率の高さだけを見て企業が現預金を過剰に貯蓄しているとするのは正確さに欠けます。

 

日本企業の利益剰余金と現預金の関係

では、利益剰余金の上昇が現預金によってもたらされているのか、実際の数値を確かめていこうと思います。以下の表が法人企業統計から作成した1997年~2016年の企業(全産業、資本金200万円未満〜資本金10億円以上)の現預金と利益剰余金の増減を表したものです。

 

表1(単位:億円)

(出所)財務省「法人企業統計」より筆者作成

 

この表から見てわかる通り、近年は利益剰余金が多く伸びる一方で、現預金は上下を繰り返しながら微増する程度です。バランスシートの右側と左側を明確に紐づけることは難しいのですが、利益剰余金の増加と現預金の増加の関係は見出しにくいです。したがって、日本企業全体の利益剰余金が増えることより自己資本比率は過去最高を更新していますが、その伸びは現預金の増加によってもたらされているわけではないことがわかります。

 

利益剰余金はどこに充てられているのか?

では、利益剰余金はバランスシートの左側の資産で何に姿を変えているのでしょうか。現預金が微増している一方、最も増加しているのが固定資産に計上される投資有価証券です(表2、3)。実際に投資有価証券は、1997年度と2016年度と比較して約190兆円増加しています(表4)。これらからわかる通り、全体の傾向として企業の利益剰余金は投資有価証券として運用されている可能性が高いです。

 

表2

(出所)財務省「法人企業統計」より筆者作成

 

表3

(出所)財務省「法人企業統計」より筆者作成

 

表4(単位:億円)

(出所)財務省「法人企業統計」より筆者作成

 

表5(単位:億円)

(出所)財務省「法人企業統計」より筆者作成

 

投資有価証券とは?

投資有価証券とは市場性がある長期保有の満期保有目的の債券(満期までの期間が1年以上)、市場性のない関係会社株式(子会社株式、関連会社株式)、その他有価証券(親会社株式、取引先の株式、持ち合い株式等)を管理するための勘定科目をいいます。

 

投資有価証券は何に向けられているのか?

投資有価証券の内訳を正確に知ることは難しいのですが、表6から主に海外進出に伴う株式取得が増えていると推測できます。表6は国内企業(民間非金融法人企業)の対外証券投資・対外直接投資・国内上場企業株式に対する投資額を暦年で表したものです。表6からわかる通り、2000年以降、国内の上場企業株式に対する投資は伸び悩む一方、対外証券投資と対外直接投資は順調に伸びてきています。

 

表6(単位:億円)

(出所)日本銀行「資金循環統計」より筆者作成

 

日本企業はただ内部留保を積み立てているわけではない

これまでの考察でわかった通り、日本企業はただ現預金を蓄積することで自己資本比率を高めてきたわけではありません。自己資本比率を高める原因となった利益剰余金の中身を見てみると海外への投資などに姿を変えていることがわかります。よって、日本企業は現預金をただ積み立てているだけではないと推測することができます。
ここで重要になるのが果たしてその使い道が収益を生み出しているのかどうかです。自己資本比率が高い一方で収益を生み出していなければROEは下がってしまいます。また、現在、企業が蓄えている現預金が適切な水準にあるのかという点も重要です。日本は国際的にみて資産に占める現預金の割合が高めです。ただし、これらは記事の自己資本比率を考察するという範囲から外れているので今回は触れません。

 

(出典・出所)

日本経済新聞「企業の自己資本比率42.7%で過去最高 4~6月期」

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS04H6Y_X00C17A9EE8000/

 

財務省「法人企業統計」

http://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou07.htm

 

日本銀行「資金循環統計」

https://www.boj.or.jp/statistics/sj/index.htm/

 

 

執筆者:パイルズガレージ編集部 白須達也

編集者:株式会社mannaka

協賛 :株式会社エスネットワークス
 

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