進む業界再編 クラレの戦略と化学メーカーの現在
目次
クラレ、海外化学メーカーをM&Aする理由とは
1926年創業の老舗化学・繊維メーカーであるクラレ。岡山県倉敷市でその歴史をスタートさせてから、化学繊維、人工皮革、歯科材料、コンタクトレンズなど実に様々な化学製品を世に送り出してきました。
そんなクラレですが、近年は自身で研究開発を行い製品化するのではなく、海外の化学メーカーを買収、吸収合併することで事業を拡充しています。
この方針をとった理由とはなんでしょうか。
クラレについて
クラレの沿革
クラレは1926年6月、岡山県倉敷市で「倉敷絹織(株)」として誕生しました。創業当初は木の繊維であるレーヨンを製造しており、戦時中は合板と木製飛行機の生産を行っていました。終戦後繊維の生産を本格的に再開させ、さらにポバール(ポリビニルアルコール)と、ポバールを原料とするビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)やメタアクリル樹脂といった化学製品の事業化に次々と着手していきます。
クラレはその後も新たな化学繊維や人工皮革、歯科材料、コンタクトレンズといった製品を事業化します。またヨーロッパ、アメリカ、中国など海外に生産拠点や駐在員事務所を設立したり、海外のメーカーと共同出資で新会社を設立したりして、海外展開も進んでいきました。
クラレ 近年の財務状況
クラレの近年の動きとして特徴的なのは、海外の化学メーカーの買収・吸収合併です。
以下は1994年度から2016年度までのクラレの売上高、営業利益、営業利益率の推移を表しています。リーマンショックを受けて2009年度前後は落ち込んでいますが、買収や吸収合併が積極的に行われ始めた頃から売り上げも増えています。最近5年ほどのデータを見ると、売上高の伸びが目立って大きくなっていますが、この間、クラレによる米化学大手デュポン社のビニルアセテート事業の買収、豪フィルム製造販売のプランティックテクノロジーズ社の買収などがありました。収益性も1994年から全体的にゆるやかな上昇のトレンドにあることがわかります。
日本の化学メーカーの戦略
世界で進む化学業界の再編
化学業界における大きなニュースといえば、米化学大手のダウ・ケミカルとデュポンの経営統合だと思います。9月1日、ダウ・デュポンが発足し、ニューヨーク株式市場に上場しました。合併前の2社の単純な合算で、売上高は約8兆円、従業員数は約10万人に上ります。日本の化学メーカーの2016年度の売上高合計が40兆円、日本最大の化学メーカーである三菱ケミカルHDの2016年度の売上高が3.8兆円ですから、いかに大きな規模の経営統合であったかがわかります。
さらに中国では、国有企業の中国化工集団(ケムチャイナ)が2016年2月、スイスのシンジェンタを買収し、2017年には国内の中国中化集団(シノケム)と統合する動きがあるとの報道がなされました。実現すると、世界最大の化学メーカーが誕生することになります。
日本の化学メーカーはどう戦うのか
このようなグローバルマーケットの動きがある中で、日本企業はどのように戦っていくのでしょうか。
クラレの数年にわたる買収・吸収合併劇は、そのための戦略のひとつでもあります。すなわち、ダウ・デュポンやケムチャイナは規模の経済を働かせて大量生産を行う一方、クラレが手掛けるのはニッチな分野の製品です。クラレが近年買収してきたのは、化学繊維やポバールなどクラレがこれまで手掛けてきた製品や関連する分野の企業・事業です。クラレはそのような海外企業やその事業の一部を獲得することで技術の向上や販路の拡大を図ることができ、また個別のニーズにこたえることで規模こそ大きくはなくとも付加価値や収益性を高めることができると考えられます。
日本企業の研究開発への取り組みは?
ところで、大企業による化学業界の再編が進む中、新たな技術はどこで生まれているのでしょうか。
以下のグラフはOECDが公表している、製造・サービス各分野に属する全ての会社に占める市場にとって新しいイノベーションを実現した企業の割合を示しています。
トップはベルギーやアイルランド、ルクセンブルクといったヨーロッパの国々が並んでいます。日本は特別高いとは言えません。
一方で日本はイノベーションと深い関係にある研究開発投資額についてみてみると、実は最も積極的に行っている国のひとつなのです。下の表、科学技術・学術政策研究所が公表している「科学技術指標2017」に掲載された各国の研究開発投資額の対GDP比のランキングでは、日本は3位につけています。新技術が効率よく生まれやすい環境ではないことは日本経済全体にとっての課題かもしれません。
日本の化学メーカーは独自の地位を築けるか
ものづくり大国である日本の化学メーカーですが、世界的に広がる大規模な経営統合を受けてもなお、全体の潮流とは異なった方向性での成長を模索しています。日本の化学メーカーは高い技術力を生かしながら、独自の地位を築けるかが注目されます。
参考文献等
- 財務総合政策研究所 法人企業統計(平成28年度)http://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/h28.pdf
- 業界動向サーチ http://gyokai-search.com/4-chem-uriage.htm
- 日本経済新聞(2017年9月2日)「ダウ・デュポン始動 欧米のメガ再編、日本勢の脅威に」
- 日本経済新聞(2017年5月16日)「化学再編『3兆円クラブ』続々 中国・欧米2つの潮流」
- OECD “Innovation statistics and indicators” http://www.oecd.org/innovation/inno/inno-stats.htm#indicators
- 科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2017」http://www.nistep.go.jp/research/science-and-technology-indicators-and-scientometrics/indicators
執筆者:パイルズガレージ編集部
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
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