独立路線の髙島屋、バランス型の経営戦略 百店業界の衰退と進化する企業
目次
「衰退する百貨店業界の分析」シリーズ7 最終回
「衰退する百貨店業界の分析」シリーズも第7弾目にして最後になりました。「衰退する百貨店業界の分析」シリーズの第1弾〜第4弾では百貨店業界の概観を分析し、第5弾と第6弾では百貨店企業の経営を個別に分析してきました。
これまで見てきた百貨店業界の売上高第1位と第2位である、株式会社三越伊勢丹ホールディングス(以下、三越伊勢丹ホールディングス)、株式会社J.フロント リテイリング(以下、J.フロント リテイリング)の2社では自社の強みと機会を掛け合わせた経営戦略を打ち出していることが分かりました。
最終回である今回は売上高第3位の株式会社髙島屋(以下、髙島屋)の経営について分析します。
「衰退する百貨店業界の分析」シリーズ
- 衰退する百貨店業界のビジネスモデル分析 百貨店の定義とは?
- 衰退する百貨店業界の小売戦略とは? 店舗経営・サービス・立地などを分析
- 衰退する百貨店業界の歴史 小売王者の栄枯盛衰とは?
- 衰退する百貨店業界で求められる経営戦略の転換 市場環境を分析
- 衰退する百貨店業界の1位 三越伊勢丹の経営戦略「主力店舗に集中投資へ」
- Jフロント、経営戦略転換で不動産に軸 衰退する百貨店業界に新百貨店モデル
- 独立路線の髙島屋、バランス型の経営戦略 百店業界の衰退と進化する企業
髙島屋の概要
まずは髙島屋の概要を紹介いたします。三越伊勢丹ホールディングスとJ.フロント リテイリングの2社は東京に本社を置いているのとは異なり、髙島屋は大阪に本社を置いています。
社名 株式会社 髙島屋
設立 1919年8月20日
代表取締役社長 木本茂
所在地 大阪府大阪市中央区難波5丁目1番5号
店舗数 国内19店舗、海外3店舗(シンガポール、上海、ベトナム)
髙島屋の部門別売上高
(出所)株式会社 髙島屋、「有価証券報告書」(2017年2月)を基に筆者作成
高島屋の売上の中核は百貨店事業です。全体の86%を占めております。他にも不動産事業があり、売上高比率は小さいですが営業利益は2017年2月に110億円を計上しており百貨店事業の122億円に匹敵します。
髙島屋のビジネス関係図
(出典)滝本哲史『業界地図2016-17年版』(2016年、成美堂出版)
髙島屋は三越伊勢丹ホールディングスとJ.フロント リテイリングとは異なり、他の百貨店企業とは合併を行なっておりません。髙島屋のこの独立路線については詳細を後述します。
髙島屋の店舗別分析
髙島屋の主力店舗
髙島屋の最大の強みは、売り場面積が5万㎡を超える大型直営店を、大都市に5店舗も展開していることでしょう。下のグラフ「部門別売上高」を見ると分かる通り、大阪店、横浜店、日本橋店、京都店、新宿店が百貨店全体の売上高の4分の3を占めており中核となる店舗です。首都圏、関西にバランスよく主力店舗を構えていることも強みです。さらに関連会社のジェイアール東海高島屋が運営する「ジェイアール名古屋タカシマヤ」も売上高1,000億円を超え、柏店、玉川店などの東京近郊店舗も地域ではトップクラスの集客があります。
(注1)大阪店には堺店、京都店には洛西店、横浜店には港南台店を含む。
(注2)法人事業部及びクロスメディア事業部の売上高は、それぞれ所在する地区の各店に含む。
(出所)
- 株式会社 髙島屋、「国内百貨店(店別売上)」(2017年2月)を基に筆者作成 [https://www.takashimaya.co.jp/corp/info/outline/network.html]
- 根城秦・平木恭一『小売業界の動向とカラクリがよ~くわかる本 』(2015年、秀和システム)
髙島屋、新宿店の売上不振
高島屋が運営する百貨店には一方で不安材料もあります。1996年に開店した新宿店は年間目標売上高の1,000億円を未だに達成していません(2017年2月期では708億円)。当初は、新宿駅新南口という新しい出口からの集客効果やユニクロ、東急ハンズなどが入居していることから活況を呈していましたが、近隣にある強力なライバル伊勢丹の旗艦店をはじめ電鉄系百貨店を含めた厳しい競争に敗れ、テナントの閉店が相次いでいるようです。
髙島屋のSWOT分析
前回の三越伊勢丹ホールディングス、J.フロント リテイリングと同様に百貨店のSWOT分析を見てみましょう。
髙島屋は百貨店事業だけでなく子会社である東神開発を中心としたSC開発事業やトランスコスモスと提携して海外市場での卸小売り事業など幅広い経営志向を取り入れています。その結果、海外市場においても近年積極的にアジアに進出しています。しかし、高島屋の国内並びに海外店舗は三越と同様に若年層にとって魅力に欠ける店舗とも言われており、今後の課題ともいえます。
(出典)根城秦・平木恭一『小売業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』(2015年、 秀和システム)
自主独立路線を行く髙島屋
再編統合で業績を拡大した大手百貨店企業の中でも、髙島屋は独立路線を堅持しています。
2008年にエイチ・ツー・オーリテイリングと関西同士の縁から一度は経営統合に合意しました。しかし戦略的に首都圏にも店舗を構える「全国展開志向」の髙島屋と、大阪梅田店に経営資源を集中投下する「ローカル型」のエイチ・ツー・オーリテイリングとは経営の方向性が違うため、2011年に白紙に撤回されました。
ただし髙島屋とエイチ・ツー・オーリテイリングの二社は、商品開発などで業務提携を続けています。
髙島屋、子会社の東神開発で不動産事業に注力
また、高島屋は日本橋再開発事業等の不動産事業に力を入れています。先述したとおり、髙島屋不動産事業の営業利益は百貨店の営業利益に匹敵します。その要となるのが子会社の東神開発で、店舗のみならず店舗周辺地域の開発も合わせて行い、賃貸料等で収益を上げることを会社の中核として掲げています。(山田純平,2014,p.24)
髙島屋の積極的な海外戦略
高島屋のシンガポール事業
髙島屋は海外展開に成功しています。
木本茂社長によると、海外では1993年に開業した「シンガポール髙島屋」が最も成功しているそうです。シンガポール髙島屋はオープンから10年間は赤字続きで撤退論も出たようですが、品ぞろえや売り場構成の修正を繰り返して業績を改善してきました。顧客は日本人というよりも、ASEANの旅行者や現地の人を意識したそうですが、日本の食材を現地化させるなどして支持を得てきました。
こうした不断の努力により、今やシンガポール事業の利益が連結営業利益の約5分の1を稼ぐまでになっているとのことです。
髙島屋のベトナム事業
木本社長によると、ベトナム事業にはこのシンガポール事業の成功モデルを持ち込み2016年より事業を開始したそうです。ベトナム事業は現地の生活水準に合わせて商品を展開し、百貨店、商業施設運営、不動産賃貸の三つの事業を統合して運営しています。不動産賃貸収入の貢献でベトナム事業はシンガポール事業よりも早く、数年内で黒字化できる見込みだそうです。
髙島屋のタイ事業
髙島屋のタイ事業では、2017年に民間による不動産開発として最大規模(商業面積12万㎡)となる商業施設「ICONSIAM」の中核テナントとして、百貨店を出店する予定です。タイ事業では現地パートナーからの要望で出店するという経緯もあり、賃料などの条件が良いようです。タイ事業も開業から数年内で黒字化を想定しているとのことです。
髙島屋の上海事業
上海店は2012年末にオープンした当初は、尖閣問題で大規模な反日デモが起きた後であったため十分な告知ができなかったようです。上海店の来店客は1日3000人という状況だったそうですが、現在は1万人程度まで増えたとのことです。2014年度の売り上げは前期比で2割増の63億円。営業損益は20億円の赤字でした。しかし、上海店の店舗近隣に既にある地下鉄の路線に加えて、2017年にもう一路線が開通する計画で、交通アクセスの改善が見込めるとのことです。2022年頃をメドに上海店を黒字化することが目標とのことです。
(出典)
- 東洋経済 ONLINE 「高島屋、『シンガポールの成功』をどう生かす」(2015年5月27日)[http://toyokeizai.net/articles/-/71030?page=2]
- 山田純平『老舗企業の財務分析ー百貨店3社の経営戦略と決算書の分析』(2014年12月25日、明治学院大学産業経済研究所研究所年報 ) pp.19-35
進化する百貨店3社の経営戦略、業界の環境変化に対応
以上、「衰退する百貨店業界の分析」シリーズの第5弾から今回の第7弾まで、三越伊勢丹、J.フロントリテイリング、髙島屋と百貨店企業の3社を見てきました。
3社に共通して言えることは、百貨店事業に対する危機意識と、既存の発想を転換し新たな再生戦略を模索しているということでしょう。百貨店事業は依然として厳しい状況にあり、総売上高も6兆円を割っております。都心に主要店を構える大手百貨店企業は、都心の一等地に所在する百貨店の不動産価値を最大限に生かすべく、様々な努力をしていることはすでに述べました。不動産事業では髙島屋はその先頭に立ち、これから不動産事業が百貨店事業を利益で抜くのではないかとの予測もあります。百貨店事業は今、大きな節目に立たされています。専門店やネット通販の拡大等で、顧客離れにますます歯止めがかからないような状況になっています。
これに対して、三越伊勢丹は本業回帰というべき百貨店事業そのものに活路を見出そうとしています。その代表的なものが、三越日本橋本店にみられる店舗の改装や事業の改革でしょう。また、海外での事業拡大にも積極的です。
J.フロントリテイリングは「非連続な成長」を掲げ、従来の百貨店とは違うテナント型複合商業施設を推し進めています。今後J.フロントリテイリングは、GINZA SIXが成功すればこのような百貨店で培った経験の強みを活かした賃貸型経営が重みを増してくると思われます。
最後の髙島屋は不動産事業で先の2社を大きく引き離しており、今後も店舗とその周辺地域の再開発というデベロッパー型の事業が大きな地位を占めてくるものと思われます。日本橋再開発のみならず、海外でもベトナムやタイでも同様の戦略を取っておりその成功いかんによって、今後の経営方針が定まってくるかもしれません。
百貨店事業が今後どうなるのかは、各企業の経営戦略によって大きく変わっていくものと考えられます。
(参考)日本経済新聞 「高島屋、利益で不動産逆転が視野に 子会社でノウハウ蓄積」(2017年3月23日)[https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL22HJY_T20C17A3000000/]
執筆者:パイルズガレージ編集部
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
財務・会計系コンサルティング会社。
ベンチャー企業やローカル企業にCFOコンサルティングを行っています。
「経営者の輩出」を企業理念とし会計や財務の実務支援能力だけでなく、 CFOとして求められる知識や経営センスをより短期間で身に付け、育成することを目指しています。
エスネットワークスは、「経営者の視点でニーズを掴み、経営者の視点で課題を解決し続ける、最強パートナー」を実現すべく、成長し続けています。
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