Jフロント、経営戦略転換で不動産に軸 衰退する百貨店業界に新百貨店モデル

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「衰退する百貨店業界の分析」シリーズ6

「衰退する百貨店業界の分析」シリーズも第6弾になりました。アマゾンなどECの発達によって過去とは異なる競合企業が登場し、また国内人口の減少による国内市場の縮小など経営環境変化に立たされ衰退する百貨店業界をこのシリーズでは分析してきました。

 

今回は百貨店業界で売上高第3位のJ.フロント リテイリング株式会社(以下、本文においてJ.フロント リテイリング)を経営の観点から分析します。

 

「衰退する百貨店業界の分析」シリーズ

 

  1. 衰退する百貨店業界のビジネスモデル分析 百貨店の定義とは?
  2. 衰退する百貨店業界の小売戦略とは? 店舗経営・サービス・立地などを分析
  3. 衰退する百貨店業界の歴史 小売王者の栄枯盛衰とは?
  4. 衰退する百貨店業界で求められる経営戦略の転換 市場環境を分析
  5. 衰退する百貨店業界の1 三越伊勢丹の経営戦略「主力店舗に集中投資へ」
  6. Jフロント、経営戦略転換で不動産に軸 衰退する百貨店業界に新百貨店モデル
  7. 独立路線の髙島屋、バランス型の経営戦略 百店業界の衰退と進化する企業

 

J.フロント リテイリングの概要

社名      J.フロント リテイリング株式会社

会社設立    2007年9月3日

資本金     300億円

代表執行役社長 山本 良一

本店所在地   東京都中央区銀座6丁目10番1号

店舗数     12※(大丸)、5(松坂屋)、17(パルコ) ※鳥取大丸は非連結のため除く

 

J.フロント リテイリングの部門別売上高

(出所)J.フロント リテイリング株式会社、「有価証券報告書」(平成29年2月)を基に筆者作成

 

グラフ「部門別売上高」をご覧頂けば分かる通り、J.フロント リテイリングは大丸、松坂屋を抱える百貨店事業とパルコを運営するパルコ事業で総売上高の90%を占め、この二つの事業は中核事業と位置付けられるでしょう。

 

J.フロント リテイリングのビジネス関係図

(出所)『会社四季報 業界地図 2016年版』(東洋経済新報社、2015年)

 

J.フロント リテイリングは株式会社大丸松坂屋百貨店と株式会社パルコ(以下、パルコ)を子会社とし、株式会社スタイリングライフ・ホールディングス(以下、スタイリングライフ・ホールディングス)に出資している持株会社です。J.フロント リテイリングはM&Aを重ねた結果、このようなビジネス関係図を構築しました。なお、J.フロント リテイリングにおけるM&Aの功績は後述します。

 

J.フロント リテイリングの国内店舗別売上高

 

 

大丸は大阪(心斎橋 梅田)、神戸、東京、京都、札幌に主力店舗を構えており、この6店舗だけで単体の95%の売上を占めています。近畿発祥の老舗百貨店であるため、近畿地方での勢力が大きいです。松坂屋は本店である名古屋店が60%の売上を占めていて中京圏では今なお最有力の百貨店といえます。また上野店では建て替え工事が行われており2017年11月4日にリニューアルオープンの予定で、今後の売上向上が期待されます。

 

(出所)大丸松坂屋、「大丸松坂屋百貨店 店舗別売上高 第10期 2017/2/28」[www.j-front-retailing.com/ir/finance/xls/high02.xls]

 

J.フロント リテイリングのSWOT分析

さて、ここでJ.フロント リテイリングのグループ全体におけるSWOT分析をしてみたいと思います。

 

 

J.フロント リテイリングはM&Aや銀座の大規模再開発などの開発事業への取り組みが活発です。店舗の建て替えなどを推進して「新百貨店モデル」の構築を図り、マーケット対応力の強化やローコストオペレーションへの構造転換など、積極的に経営改革を行っています。具体的には、マーケット対応力強化のため、若年層に人気のある専門店の誘致や小売に有利な消化仕入の慣行を改めること、また、コスト削減のために売り場にいる販売員の縮小とそれに代わって、事業全体の運営要員を強化するとしています。

 

(出典)

  • 根城秦・平木恭一『小売業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム、2015年)
  • 山田純平『老舗企業の財務分析ー百貨店3社の経営戦略と決算書の分析』( 明治学院大学産業経済研究所研究所年報  、2014年12月25日) pp.19-35

 

J.フロント リテイリング、積極的なM&Aと事業提携

J.フロント リテイリングの強みの一つに挙げられたM&Aについてどのように活用してきたかを述べていきたいと思います。

 

J.フロント リテイリングは、2007年に大丸と松坂屋が経営統合してできたグループであり、三年に渡る百貨店同士の合併によって統合が完了しました。2011年から業容拡大を図るためM&Aを推進し、2011年にはかつて銀座の名所の一つだったプラザ(旧ソニープラザ)を運営するスタイリングホールディングスを買収しました。2012年にはセゾングループのパルコを買収して連結子会社化し、13年にはコクヨの子会社でオフィス用品通販のフォーレストを買収するなど、矢継ぎ早に企業買収を行いました。

 

パルコは買収後に「パルコ事業」として位置づけられ、SC事業、専門店事業、総合空間事業、インターネット関連事業など幅広く事業展開しています。

 

(出典)根城泰・平木恭一『小売業界の動向とからくりがよくわかる本』(秀和システム、2015年)

 

J.フロント リテイリング、新百貨店モデル「GINZA SIX」を開業

2017年4月20日、東京・銀座の松坂屋銀座店跡地に、GINZA SIX(銀座六丁目10地区第一種市街地再開発事業)という商業複合施設が開業しました。この再開発事業では、松坂屋銀座店跡地だけでなく隣接2街区を含み、出資企業はJ.フロント リテイリング、森ビル、住友商事及び、L Catterton Real Estateの4社となっております。内部は、商業施設、オフィス、観光拠点、能楽堂があり、J.フロント リテイリングが中期戦略として打ち出すアーバンドミナント戦略の中核として位置づけられています。アーバンドミナント戦略とは、都市部の人口集中は変わらないという将来予測を軸とし、J.フロント リテイリングが所有する資源を活用して、都市部でドミナントを形成するということです。

 

新たに誕生する商業施設のコンセプトは、「Life At Its Best〜最高に満たされた暮らし〜」であり、GINZA SIXでしか得られない最高品質のモノやサービスの提供ということです。貸店舗型商業施設やオフィス、日本を代表する伝統文化である能楽の会場や様々な観光施設の充実等は、従来の小売業を中心とする百貨店のコンセプトを打ち破るものであり、「銀座で百貨店はやらない」という決断の表れでしょう。

 

実際GINZA SIXは不動産事業として位置づけられており、部門売上収益は前年3~6月度比で158.7%の大幅増益となりました。J.フロント リテイリングは2021年度営業利益目標を560億円と掲げており、百貨店事業とパルコ事業の構成比を現在の9割から7割にし、その一方で財務報告に新たに不動産事業というセグメントを設定し、その構成比を12%にまで拡大するとしています。都市部における不動産価値に着目し、最大限増収に活用するという発想の転換によって、J.フロント リテイリングは大きく舵を切ろうとしています。純粋な百貨店事業は更に衰退していくものと思われます。

 

 

(出典)

 

J.フロント リテイリング、松坂屋上野店南館建替え

J.フロント リテイリングは、再開発が進行中の御徒町地区に新たな賑わいを創出し、地域の活性化に貢献するため、松坂屋上野店南館の建替えを進めています。商業、シネマコンプレックス、オフィスからなる高層複合ビルに建て替える計画です。地上23階地下2階建て、延べ床面積約4万2000m2の規模で、2017年秋の開業予定です。

 

地下1階を大丸松坂屋百貨店の食品専門店とし、地上1~6階にはパルコが出店する予定です。パルコがJ.フロント リテイリング傘下の主力百貨店内へ出店するのは12年8月の連結子会社化以来初めてとなります。また7階から10階には「TOHOシネマズ」が入居するなど、これまで御徒町地区にはなかった新たな施設となります。

 

一方、高層部の12階から22階は高機能オフィスとして賃貸し、安定的な不動産収入の獲得をはかっています。総投資額は本館の改装を含め約200億円を見込んでおります。プロジェクトマネジメント支援業務と設計・監理業務を三菱地所グループが担当し、オフィス部分のテナントリーシング支援やマスターリースも手がけています。ここでもJ.フロント リテイリングの所有する不動産価値の最大化方針がみてとれます。三越伊勢丹ホールディングスでもそうであるように、百貨店の不動産価値をどう活かすのかということが、再生の鍵となっているようです。

 

(出典)

 

 

執筆者:パイルズガレージ編集部

編集者:株式会社mannaka

協賛 :株式会社エスネットワークス

財務・会計系コンサルティング会社。
ベンチャー企業やローカル企業にCFOコンサルティングを行っています。
「経営者の輩出」を企業理念とし会計や財務の実務支援能力だけでなく、 CFOとして求められる知識や経営センスをより短期間で身に付け、育成することを目指しています。
エスネットワークスは、「経営者の視点でニーズを掴み、経営者の視点で課題を解決し続ける、最強パートナー」を実現すべく、成長し続けています。

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