上場企業に求められている「サクセッションプラン(後継者育成計画)」とは?
目次
サクセッションプランで経営トップ後継者を育成・選定
サクセッションプラン(後継者育成計画)とは経営トップの後継者候補の育成や選定を行うプロセスのことを指します。2015年に東京証券取引によってコーポレートガバナンス・コードが策定されて以来、日系企業がどのようにサクセッションプランに取り組んでいくのか注目を集めています。
今回はこのサクセッションプランについて解説していこうと思います。
サクセッションプランとコーポレートガバナンス・コード
サクセッションプランとコーポレートガバナンス・コードには密接な関係があります。コーポレートガバナンス・コードとは、企業が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うために、東京証券取引所によって定められた仕組みのことです。コーポレートガバナンス・コードは全上場企業に適応されています。コーポレートガバナンス・コードで、サクセッションプランは以下のように明記されています。
補充原則4-1③
取締役会は,会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ,最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべきである。
サクセッションプランの重要性
サクセッションプランが必要とされる理由は企業の中長期的な成長を実現するためです。企業の経営トップは、企業価値向上に向けた経営方針の決定、そして中長期的な目標の設定とその実行において最も重要な役割を果たします。従って、長い期間に渡って企業の価値を向上させていくには適切な経営トップを育成し選定していく仕組みが重要になります。2016年2月に行われた金融庁による「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」においてもサクセッションプランの重要性が以下のように述べられています。
上場会社を取り巻く環境がグローバル化、技術革新の進展、少子高齢化、社会・環境問題への関心の高まりなどにより大きく変化し続ける中、会社が直面する経営上の課題も複雑化しており、日本の企業の多くが、必ずしもこうした変化に即応できていないのではないかと指摘されている。
このような経営環境の変化や経営課題の複雑化に対応しながら、上場会社が持続的に成長し、中長期的に企業価値を向上させていくためには、経営陣が、最高経営責任者(CEO)を中心として、絶え間なく、先見性のある、適確な経営判断を行っていくことが重要である。このためにも、取締役会が行うCEOの選解任は、上場会社にとって最も重要な戦略的意思決定であり、選解任を適切に行うため、そのプロセスには、客観性・適時性・透明性が強く求められる。
出典「金融庁 平成28年2月18日 スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」
http://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20160218/01.pdf
サクセッションプランのポイントとは?
サクセッションプランのポイントは「候補者の育成」と「候補者の絞込み・選定」の2つです。
サクセッションプランのポイント① 候補者の育成
サクセッションプランにおいて後継者をただ指名するだけではなく、いかに次世代の経営トップを育てていくかという点が重要になります。候補者の育成において重要なポイントは以下の3点になります。
候補者育成のポイント① 経営理念の共有
1点目は、経営理念の高いレベルでの共有です。企業を経営していく上で経営理念は最も重要な要素の一つです。従って、経営トップは単に経営理念を理解するだけではなく、理念を具体的な経営戦略にまで落とし込むことや背景を詳細に語ることができるレベルにまで達することが求められます。
候補者育成のポイント② 経営者としての資質
2点目は、経営者としての資質です。上場企業の経営者には、コーポレートファイナンスに代表される、経営分析・管理に関する知識に精通していなければなりません。
候補者育成のポイント③ 経営者としての経験
3点目は、経営者としての経験です。講義やワークショップだけではなく、小さな組織でも実際にリーダーシップを取る経験が必要になります。
候補者の育成方法
具体的な候補者の育成には、社内大学・経営塾を通じて経営理念や経営戦略を学ぶ方法、選抜型研修や戦略的移動を通して後継者を育成していく方法などがあります。また、コーポレートガバナンス・コードにおいて後継者の育成は以下のように明記されています。
原則4-14 取締役・監査役のトレーニング
新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担う者として期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべきである。
サクセッションプランのポイント② 候補者の絞込み・選定
後継者の候補者を絞り込み、選定する際に重要な要素は以下の2点になります。
後者の絞り込み・選定のポイント① 中長期的な企業価値向上の能力
1点目は選解任される経営トップが中長期的な企業価値を上げる能力があるかどうかです。これはサクセッションプランにおいて最も重要なポイントになります。従って、選解任のプロセスにおいて、候補者に必要な資質を明確にし、その資質を保持しているか確認できなければいけません。
後者の絞り込み・選定のポイント② 選任プロセスの透明性
2点目は、候補者を選任するプロセスの透明性です。ここでの透明性とは株主・投資家視点から見た透明性のことを言います。選解任プロセスの情報開示が十分でなければ、適切な意思決定がなされているかどうか確認することができません。
具体的に選定プロセスの透明性を高めるには、取締役会が選定のプロセスを監督する、もしくは取締役会の下に指名委員会を設けて監督を行うなどの方法があります。
サクセッションプラン 国内外の事例
続いて、実際にサクセッションプランを導入している企業の実例をいくつか紹介していこうと思います。
サクセッションプラン オムロンの事例
オムロンとは皆さんもご存じの通り日本の大手電気機器メーカです。産業向け制御機器やシステム、電子部品やヘルスケア製品等を展開しています。オムロンは、サクセッションプランの透明性・客観性を高めるために、社長の指名に特化した「社長指名諮問委員会」を設けています。オムロンは、「オムロン コーポレート・ガバナンスポリシー」において「社長指名諮問委員会」を以下のように規定しています。
(2) 社長指名諮問委員会
社長指名諮問委員会は、その規程に基づき、社長候補者の決定に対する透明性と客観性を高め、取締役会の監督機能の強化を図ることを目的とする。
- 社長指名諮問委員会は、緊急事態が生じた場合の継承プランおよび後継者計画(サクセッションプラン)について、毎年審議し、取締役会に答申する。
- 取締役会は、社長指名諮問委員会の答申に基づき、株主総会に付議する取締役選任議案を決定する。
出典「オムロン コーポレート・ガバナンスポリシー」
サクセッションプラン GEの事例
ゼネラル・エレクトリック(以下、GE)とはアメリカに本社を置く多国籍コングロマリット企業です。その事業内容は電気機器、機械、軍用機器の製造・販売、金融など多岐にわたります。GEはサクセッションプランにおいて最も有名な企業の一つです。
GEの企業内ビジネススクール クロトンビル
クロトンビルとはGEが開設した世界初の企業内ビジネススクールのことです。GEは年間10億ドル規模の資金を人材育成に投入しており、その大半がクロトンビルの研修所の運営に費やされています。社内研修として規格外の規模を誇るクロトンビルですが、そこでは次世代のリーダーを育てるために様々な教育が提供されています。
日系企業のサクセッションプランへの取り組みに注目
今回は、サクセッションプランについてコーポレートガバナンス・コードとの関わりを中心に解説してきました。日系企業はもともと年功序列の企業体制もあり、サクセッションプランはあまり得意な分野ではありませんでした。しかし、2015年のコーポレートガバナンス・コードが施行されて以降、日系企業もサクセッションプランに力を入れてきています。サクセッションプランは企業の成長にとって最も重要な戦略の一つです。今後、企業がどのようにサクセッションプランに取り組んでいくか要注目です。
執筆者:パイルズガレージ編集部
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
財務・会計系コンサルティング会社。
ベンチャー企業やローカル企業にCFOコンサルティングを行っています。
「経営者の輩出」を企業理念とし会計や財務の実務支援能力だけでなく、 CFOとして求められる知識や経営センスをより短期間で身に付け、育成することを目指しています。
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