衰退する百貨店業界の小売戦略とは? 店舗経営・サービス・立地などを分析
目次
「衰退する百貨店業界の分析」 シリーズ2
国内需要の減少など経営環境の変化に立たされる百貨店業界。衰退の影を落とす百貨店業界の分析をするシリーズの2弾目、今回は取扱商品や店舗経営の原則など百貨店業界の小売戦略に焦点を合わせて分析します。
「衰退する百貨店業界の分析」シリーズ
- 衰退する百貨店業界のビジネスモデル分析 百貨店の定義とは?
- 衰退する百貨店業界の小売戦略とは? 店舗経営・サービス・立地などを分析
- 衰退する百貨店業界の歴史 小売王者の栄枯盛衰とは?
- 衰退する百貨店業界で求められる経営戦略の転換 市場環境を分析
- 衰退する百貨店業界の1位 三越伊勢丹の経営戦略「主力店舗に集中投資へ」
- Jフロント、経営戦略転換で不動産に軸 衰退する百貨店業界に新百貨店モデル
- 独立路線の髙島屋、バランス型の経営戦略 百店業界の衰退と進化する企業
百貨店業界の取扱商品・価格帯
百貨店はどのような商品を扱うのでしょうか?まず、百貨店とは、読んで字のごとく「百貨を取り扱う店」のことであり、その名の通り、商品分野は衣料品、家庭用品、インテリア、雑貨、食料品などの幅広い分野にわたっています。また食堂、喫茶、旅行、文化センターなどサービス分野の提供も行っています。店舗から出ることなく、購買が完結しやすい環境といえます。
価格帯も、海外のラグジュアリーブランドや美術宝飾品などの高額品から、手頃な価格の日用品雑貨まで取り扱っています。百貨店の取扱商品構成としては、衣料品が32%、食品が28%、雑貨が17%のシェアを占めています。(日本百貨店協会「最近の百貨店売上高の推移 第2表商品別売上高」2016年分より算出)
販売方法は、バーゲンセールのような廉価販売を除けば定価販売が基本です。なぜ定価販売にこだわるかというと、かつてよく行われていた相対交渉取引からの脱却合理化という経緯があると考えられます。(詳しくは宮副謙司(2007)p.9参照)
また、商品は比較的高価格であり、高級品を多く取り扱うのも特徴です。高価格商品を販売するため、商品の情報提供や高い接客サービスが必要とされる対面販売での接客が基本となります。この点がセルフサービス式を基本としているスーパーマーケットとの大きな違いといえます。他の小売業態と比較して「高品質」「付帯設備の充実」「接客の丁寧さ」「都市立地」「ファッション性」「非日常性」、長年の歴史・のれんからの「安心・安全」などで差別化を図っています。それゆえ、多少高価格でも、商品の信用性を重視する消費者による購買が多いといえます。多種多様な商品を扱うため、幅広い顧客層を対象にしていますが、利用する消費者は年齢が高めの中高年者が多くなってます。
百貨店業界、店舗経営の原則
百貨店は、非常に多くの様々な商品系統で構成されていますが、各々の商品系統は店舗内に独立した売り場を持ち、それぞれ専門の仕入係と販売要員を擁し、独立した会計がなされます(部門別管理の導入)。
さらに販売に関連する補助業務(広告、陳列、現金処理、経理、配達等)は後方部門として機能する組織体制となっています。この合理的手法は近代経営の特徴とされる「集中的経営」であり、小売業では百貨店が初めて導入しました。百貨店は大規模経営をいかし、経済学でいうところの「範囲の経済」を追求したものとも見ることもできるかもしれません。
百貨店業界の特殊なサービス、友の会とは?
百貨店に特有のサービスとして友の会があげられます。
友の会制度とは、顧客が会員となって一定期間、一定額の積立てを行うと、満期時に積立総額に加えてボーナス分をプラスした「買い物券」を利用できる制度でのことです。例えば、毎月1万円積み立てるコースを選択した場合には、1年後に12カ月分の積立総額12万円に加えて1カ月分のボーナス分をプラスした13万円分の買い物券を利用できるというようなサービスです。これは百貨店側からみると、顧客の囲い込み戦略の一つといえるでしょう。
(出典)
宮副謙司、内海里香(2011)「国百貨店の店舗戦略2011」同友館
宮副謙司 (2007)“百貨店の業態特性としての統合管理機能―組織能力視点からの百貨店論―” 『東京大学COEものづくり経営研究センター MMRC Discussion Paper No.138』
http://merc.e.u-tokyo.ac.jp/mmrc/dp/pdf/MMRC138_2007.pdf
日本百貨店協会「最近の百貨店売上高の推移 第2表商品別売上高
http://www.depart.or.jp/common_department_store_sale/list
百貨店の店舗立地・店舗タイプ
百貨店はその立地によってタイプが分かれます。ここでは3つのタイプについて以下ご紹介いたします。
都心立地
呉服店から発祥して大型店に成長した、いわゆる老舗百貨店の多くは都心立地です。
都心立地の百貨店は富裕層を顧客に抱え、高級品の需要が高いということがあり、できるだけ高い客単価で売上を稼ぐ戦略となります。そのような高い客単価をあげるためには、商品知識や販売スキルの高い専門人材を配置し、サロンのような売り場を含め、高級で芸術的な装飾や什器等で店舗内外を演出するといった特徴があります。
さらに、都心で消費者を集客し、客数を確保するために、美術展や物産展などの店内催事で来店者の増加を図ったり、また以前、販売形態のところで述べた外商による販売も行っております。都心立地の百貨店の代表的なものは、三越の日本橋本店(東京)、大丸の心斎橋店(大阪)等があげられます。
ターミナル立地
大都市の電鉄の始発、終着駅には、電鉄企業が経営する百貨店が多く存在します。これは電鉄企業が、駅舎と一体化した百貨店の経営を始めることにより誕生しました。
この「駅ビル百貨店」は、立地条件の優位性を最も効果的に活かしていえます。その立地特性上、駅ビル百貨店は都心型百貨店に比べて、すべての商品にわたって品揃えの仕方も、また顧客の購買動機も、より実用的とえいます。大都市のターミナル駅という特性上、客足も途絶えにくく、そのため、商品回転率を高く維持することができます。本来、不特定多数を顧客対象としている百貨店にとって、ターミナル立地は最もその強みを発揮します。
実はこうした駅ビル百貨店は、欧米にはほとんど例を見ない日本独特の百貨店形態です。それゆえ都心立地からターミナル立地へ立地志向を変えた百貨店も数多くあります。代表的なターミナル型百貨店は、日本初のターミナル立地を行った阪急百貨店をはじめ、東急百貨店、西武百貨店、小田急百貨店、京王百貨店があります。
(出典)
宮副謙司、内海里香(2011)『全国百貨店の店舗戦略2011』同友館
郊外SC立地
郊外SC立地の百貨店は、前述とは異にするタイプです。
近年、郊外で大型ショッピングセンター(SC)が増加する中で、百貨店がそのテナントとして入る場合があります。これは従来の百貨店という枠に概念上おさまらない形態の店舗であり、経営上の発想の転換が必要となりそうです。郊外SCタイプの百貨店は、大都市で多数の顧客の来店で成り立つ従来型百貨店タイプから転換し、郊外店舗で成り立つ経営構造や、多店舗をチェーン展開する店舗運営ノウハウを確立する必要があり、容易ではないかもしれません。
執筆者:パイルズガレージ編集部
編集者:株式会社mannaka
協賛 :株式会社エスネットワークス
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