樽本法律事務所 樽本哲氏に聞く。弁護士の枠を超えて挑む社会変革【後編】

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「欲しがられる人材になりたい人が集まるプラットフォーム」である『PILES GARAGE』。企業を“個”の力で支える、「杭(PILES)」のような人材を育てる「場所(GARAGE)」として、「欲しがられる人材」とはどのような人材であるのか、様々な人のお話を聞くことで改めて考えてみようと立ち上げたこの対談企画。

 

今回は樽本法律事務所代表弁護士 樽本哲氏にご登場いただきました。樽本法律事務所では、ビジネスや人生、社会変革のためのチャレンジなど、クライアントが本当に叶えたい未来のための法的サポートを提供しています。
今回の対談の後編では、弁護士業務とベンチャー・NPO支援を両立する樽本氏の仕事に対する姿勢や、キャリアを築く中で生まれた社会変革への思い、若い世代へのメッセージなどを語っていただきました。PILES GARAGE編集長の柴田、株式会社Mi6代表取締役の川元氏との対談をぜひ、お楽しみください。

 

以下
樽本:樽本法律事務所代表弁護士 樽本 哲氏
柴田:株式会社mannaka 代表取締役 柴田 雄平
川元:株式会社Mi6 代表取締役 川元 浩嗣氏

 

ビジネスの力で社会の仕組みを変える

柴田
樽本さんは弁護士として活躍する一方でベンチャーやNPOの支援を積極的に行っていますが、「人の役に立ちたい」という想いと、それを仕事で実現するための姿勢について教えていただけますか。

 

樽本
たとえば、ひとりの人が人権侵害で訴訟を起こしたとして、その背後には同じような問題で悩んでいる人が何万人といるわけです。弁護士は、目の前のひとりのためにベストを尽くすんだけど、裁判で一ついい判例が作れたら、背後の何万人を一気に救えたりするんです。

 

柴田
なるほど。そう言われてみればそうですね。

 

樽本
弁護士の仕事って、そういうドラスティックさがあるんですね。一方で、僕が関わっているベンチャーやNPOなどは、国家が解決できない矛盾や問題で困っている人をビジネスの手法や社会貢献を通じて救っていこうという取り組みです。大きな課題に対して網をかけて世の中を変えていくというやり方なので、アプローチが全然違うんですね。僕自身、司法で世の中を変えるというやり方に満足できなくなってきたということもあって、そういう方向に向かっています。

 

柴田
なるほど。どちらかというと、司法は守りのイメージですか。

 

樽本
というか、弁護士の仕事は困ってる人と知り合えないと救えないんですよ。

 

柴田
その人が来てくれないと救えないと。

 

樽本
ビジネスやNPOは、問題意識を持っている人たちに対して仕組みを提供できれば、ずっと救っていくことができるんです。持続可能で、社会へのインパクトも大きいですよね。そちらに貢献したいという気持ちが強くて、経営や組織の中に入って関わっていくということをやってるんだと思います。

 

 

柴田
図が描けそうですね。司法の場合は、1つのことを変えれば100のことが変わる。ビジネスやNPOは、100のニーズに対して1つのサービスをつくることで社会が変わる。

 

樽本
裁判をやっている人なら感覚的にわかると思うんですけど、裁判の場合、勝てば救えるけど、勝てなかったら救えないばかりか経済的な負担まで負わせてしまうんですよ。勝てるかどうかというのは弁護士の力量だけの問題ではなく、いろいろな問題が絡んでいるので打率が低いんですね。その中で、勝つかわからないのにホームランをめざして打ち続けるのと、一つ一つ着実に組織や仕組みをつくっていって成果を出していくのと、どちらがいいかということなんです。

 

柴田
なるほど、確実な方法で社会を変えていきたいと。

 

樽本
ビジネスやNPOの問題って、裁判という紛争解決の仕組みの中に入れられるものばかりじゃないですよね。立法・行政・司法という三権分立のトライアングルの中で国家は動いていますが、その枠に入らないビジネスやNPOの方法論でも世の中を変えていける、変えていきたいというのが、僕の考え方です。

 

川元
なるほど。面白い。

 

柴田
でも、社会を変える土台となる司法の部分は、樽本さんの中には残っているわけですよね。

 

樽本
そうですね。弁護士資格がありますので、そこはもちろん続けます。ただ、普段は企業の応援がメインですね。

 

川元
弁護士の部分とビジネス支援の部分、どうやって使い分けているんですか。

 

樽本
司法は司法のルールがハッキリ決まっているので、その中でできることをするという感じなんです。
20代の頃、事件を起こした少年の弁護をしていたことがあったんですが、少年が貧困など劣悪な家庭環境で育っていた場合「おまえ、更生しろよ」と言ったところで、できっこないんです。家庭や社会の根本的な問題が解決していないから、またすぐに再犯するんです。それを変えるには少年の親や生活環境をケアしていかなきゃいけないんですが、それができるのは弁護士じゃない。ビジネスだったりチャリティーだったり福祉だったりするわけで、そこをもっとエンパワーメントできるなら、僕はそこに貢献したいと思ったんですね。

 

 

柴田
なるほど。今のお話で、すごくわかりやすくなりました。司法にできることにも限界があるんですね。

 

樽本
少年が犯罪に関わると、未成年の場合は家庭裁判所に送られます。そこで鑑別所に入れたりして、子どもの取り巻く社会資源を確認したり、精神的な障害がないかといったチェックをします。そういった情報を踏まえて少年の処分を決めるのですが、罰するだけではダメなので、更生して社会資源につなぐ場所として少年院などの施設に適切な処遇で送り込みます。ここまでが司法でできることですね。
ただ、適切な処遇を考えたところで、彼らの生活環境はよくならないから根本的な解決にはならないんですよ。その環境をよくするために、地域の保護司とかいろんなネットワークはあるんですが、ときどき砂漠に水をまいているような気持ちになるんです。

 

川元
今ある法律のルール上の「いい」「悪い」で裁いても、環境の土台が変わっていなければ、本人は変わらない。そこを変えることは司法の業務ではないので、ビジネスやチャリティーを通して変えようとしているということですね。

 

樽本
そういうことです。「どちらかがより重要」というのではなく、どちらも同じように重要なことだと思います。

 

柴田
司法でカバーしきれないところをカバーしていきたいということですか。深いですね。スケールが大きい。そういう観点で問題を捉えている弁護士さんって、極めて稀な気がする。

 

樽本
現場でがんばっている弁護士の中には同じような思いを持っている人は多くいると思います。ただ、自分の守備範囲と考えて行動するかどうかの違いでしょうね。

 

司法の枠にとらわれない発想を持つ

川元
樽本さんのそういう弁護士としての力って、他の弁護士さんと何が違うんでしょうね。

 

樽本
僕は司法や弁護士の仕事に対して、最初からそれほど期待していないんです。というと語弊がありますが、決して万能感はなくて、「こちらができないならあちらでやろう」という感覚ですね。もし最初から本当に弁護士になりたくて「この資格を活かしてガンガンやろう」って思ってたら、逆に司法の枠内での発想しかできなかったかもしれない。

元々司法試験を受けたのも、東京の大学に仕送りしてもらうためだったから、他にやりたいことがあれば弁護士を続けなくてもいいぐらいに思ってたんですよ。司法試験に受かって司法研修所に行った時も「裁判官・検事・弁護士のどれをやりたい」と聞かれて「いや、まだ法曹界に入るかどうかも決めてません」と答えたら、「おまえはここに何しに来たんだ」と言われて(笑)。結局、一番活躍の場が広そうな弁護士を選んだんですけれども。だから、弁護士としてこの問題を解決できないなら違う方法でやってみようと考えるんです。オルタナティブというか。

 

柴田
柔軟であり、枠にとらわれないですよね。樽本さん自身が、そもそもイノベーター気質なのかも。

 

川元
あまり枠にはまりたくなくて、常に進化を求めていますよね。一つのスキルだけじゃなくていろいろな方法論で考えるから、思考が多角化されていると感じます。

 

樽本
司法の役割って、対症療法的なものが多いんですよ。さっきの話でいえば、少年事件の弁護では目の前の少年のためにめちゃくちゃ頑張るんですけど、それだけでは社会全体を変えることはできない。同じような境遇の子どもたちを救うにはどうしたらいいか、もっと根本的に治療がしたいんですよね。

 

柴田
なるほど。本質的な部分から変えていきたいと。

 

樽本
そこを変えていくためには、弁護士というやり方でなくてもいいんですよ。

 

柴田
お話を伺っていて、樽本さんは常に解決をめざしていく方なんだなと。ソリューション型ですよね。その方法論も司法という枠にとらわれなくて、選択肢をたくさん持っている。さまざまな事例を経験しているからあらゆる問題を抱えた人に対応できるし、そこから社会的な問題を見出して解決を求めるという、そんな感じですよね。

 

ゴールとなる現場に身を置いてみる

川元
樽本さん自身の経験をふまえて、20代、30代の人にメッセージやアドバイスをいただけますか。

 

樽本
僕が20代の頃は、経営者の応援というか砦になりたいという気持ちが強かったものですから、その人たちと共通の言語で話せるようになりたいと財務やマーケティングの本を読んだり、常にいろんな分野の勉強をしていました。実際に会社の役員になって、毎月数字を見ながらああでもない、こうでもないと議論し続けた経験はめちゃくちゃ糧になりましたね。いろんなタイプの経営者や経営陣に揉まれてきたことが、今もすごく役に立っています。現在NPOの理事や監事を務めていますが、いろいろ事例を見てきたし発想もわかるから、適切なアドバイスができる。

 

当初から明確にゴールのイメージを持っていたので、じゃあ経営者の人たちとつきあうにはどうしたらいいかという視点で物事を見たり経験を積んで来たのかなと思います。だから目標があるなら、まずはそこに身を置くことが大事かなと。あと、僕の場合は弁護士というベースがあるから呼んでもらえるという側面もありますね。

 

 

柴田
樽本さん、ちょっと銀座のママっぽい感じもありますよね。いろんな方面で勉強してて、何でも答えてくれる。助けるためのベースをすべて持ってて、「助けてやるから、安心してぶつかってこい」みたいな。

 

川元
会員制の銀座のクラブみたいな。

 

樽本
弁護士事務所ってちょっと銀座のクラブに似てるかもしれませんね。弁護士とお客さんが、同じように年を取っていくじゃないですか。そうすると、若い顧客のためにチーママの弁護士が担当するみたいな(笑)。そういう若い弁護士がずっと残ってくれればその事務所は発展するし、独立しちゃうと発展しないんですよ。

 

柴田
なるほど。経営システムも似てる。“銀座のママ力”ですか。法律だったり経営だったり、いろんな分野に対応できて。

 

川元
ネットワークが広いのも似てますよね。今日の対談は“銀座のママ力”で、うまくまとまったかも(笑)。貴重なお話をありがとうございました。

 
ーーーーー
今回の対談の後編では、弁護士業務の枠を越えて社会の変革に取り組む樽本氏の思いや、若い世代へのメッセージを語っていただきました。ビジネスを社会変革のチャンスととらえ、弁護士としてのキャリアにこだわらずに仕事に取り組む柔軟な姿勢が強く印象に残りました。20代の頃から幅広い分野で勉強を続け、オールラウンダーな弁護士として経験を積んで得た専門性と知恵が、社会を根本から変革する力となっているのですね。

 

あなたにとってはどんな話が胸に残りましたか? この記事から、これからの時代を生きるヒントが見つかれば幸いです。

 

前編はこちら

樽本法律事務所 樽本哲氏に聞く。弁護士の枠を超えて挑む社会変革【前編】

 

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記事:PILES GARAGE

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